『ヒューマノクラシー/「人」が中心の組織をつくる』
ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ 著
東方雅美訳、嘉村賢州-序文、
英治出版、2023/12/6発売、定価2,750円(税込)
東方雅美訳、嘉村賢州-序文、
英治出版、2023/12/6発売、定価2,750円(税込)
長年にわたって組織の根幹をなしていた官僚主義=ビューロクラシー。もはや、その役割を終えたはずなのに、まだまだ一部の組織に根深く残りつづけている。この本では、ピラミッド型の垂直制御をおこなう組織から、現場で汗水流して働いている従業員を中心とした「人水平(僕の造語だが、現場の人たちが、自分たちで考え、アイデアを出しあい、工夫して、日々のさまざまな業務をおこなうだけでなく、経営全体のことまで含めて、自分たちで運営するという意味)の組織」の先見性を力説している。
私は経営分野については門外漢だが、ゲラを読んでいて、のめりこんでしまった(笑)。というのも、実例でとりあげている欧米企業の「ミシュラン」や「サウスウェスト」や「ニューコア」の話が、まるでドキュメンタリー小説を読んでいるような筆致だったからだ。ふと、かつて大ヒットした企業小説の『ザ・ゴール』を思いうかべる。著者および翻訳者の手慣れた文章力が光る。
訳者がゲラを校閲している頃だろうか、テレビのワイドニュースでは、ビッグモーターやジャニーズ事務所の報道が過熱していた。最近では、大学のアメフト部の事件や自民党の「パーティ券裏金疑惑」などが取りざたされている。
なんだか、こうした問題の背後に、垂直に形成された権力構造が見え隠れする。透明性や説明責任という表現が飛び交うなかで、いまだに官僚主義が根強く生き延びていることを肌で感じる。というより、われわれ自身の心のなかに、あるいは自分が暮らす地域のなかに、さらには広い社会のなかに、無意識に、まだしっかりと官僚主義の性癖がこびりついているのではないか。
ともあれ、この『ヒューマノクラシー』の内容は、批判が主ではない。産業革命時に必要とされた官僚制のメリットやデメリットを検証するなど、官僚制の長い歴史を、端的に、冷静に分析しつつ、それ以外の大半を、官僚主義から脱却するための解説に充てている。
官僚主義から脱却するため、困難のなかで地道な取り組みをしている大小の企業や組織の事例を豊富に紹介。また、自分の日々の職場のなかで、どうしたら粘り強く、官僚主義を超えられるか、その方法を具体的に伝授。
つまり、読むと元気になる本だ。冬休みに一読をお勧めする、うってつけの一冊だと思う。
(2023年12月6日 和田文夫)