★読者のみなさまへ 『パクリ学入門』刊行のご案内★
企画から発行まで、2年の歳月を費やした『パクリ学入門 ウェブ時代の創造力を鍛える36冊のブックガイド』が、4月5日に発売されます。
書名: パクリ学入門 ウェブ時代の創造力を鍛える
36冊のブックガイド
著者: 黒川芳朱
体裁: タテ188×ヨコ118ミリ、ソフトカバー
発行: ガイア・オペレーションズ
発売: 英治出版
定価: 本体1,500円+税
じつは、この企画はもともと、英治出版の編集スタッフ(出版プロデューサー)の勉強会として企画されたものでした。編集者として、さまざまな著者と関わるに際して、これだけは読んでおきたい本、考えておきたいテーマを考え、その本の優れた内容を話し合おうという意図で出発しました。その後、いくつかの事情で、その企画が変更になったので、改めてきちんと著者を立て、本の企画として再出発しました。
なんの苦労もなくコピー&ペーストでさまざまな情報が手に入るウェブ時代、そもそもオリジナルは存在するのか。いま、文芸、音楽、映像、身体などをはじめとする表現=創造力は、どういう状況にあるのか。芸術や創造的表現は、もはや我々にとって無用のものになりつつあるのか。
そうしたテーマを、「パクリ」というユニークな切り口で考察したのが『パクリ学入門』です。では、本書の「序文」の一部を、ご紹介しましょう。
「今やわれわれは、インターネットによって、世界中からテキスト、静止画、動画、音声をかき集めてコピー&ペーストし、図版の入った読み物や映像作品など、さまざまなものを作成できる。かつてないほどスピーディで、仕上がりもきれいなパクリの手段を、コンピュータは標準装備した。創造と情報の転用の差が曖昧になり、パクリが市民権を得てしまったのだ。これが、新たな創造につながるのか、文化をつまらないものにしてしまうか、即断はできない。だが、こういった状態は本当に今に始まったことだろうか。
書道では手本を真似る。絵画の修練として模写がある。表現としてコラージュがある。クラシックでは楽譜のとおりに演奏する。和歌では本歌取りがある。文章を書くことは、すでに存在している単語や慣用句を組み合わせることである。口承文学や民謡が示すように、文化の伝承と創造のあいだに線引きをすることは難しく、ひとつ間違えば文化のダイナミズムを殺すことにもなりかねない。私たちは、いつごろからか、独創というドグマに縛られ、創造は無から有を生み出すものだと考えすぎたのかもしれない。創造を物質やエネルギーや情報が形を変えていく過程と考えると、そこには本質的に「模倣す(パク)る」に近いことがあるはずだ。
そこで私は、「つく(創・造・作)る」ことの現代的意味を考えるために、ある実験をすることにした。文化や創造に関するさまざまな本を読み、その内容をパクリという言葉で強引に解釈してみようというのだ。それによって、独創とは異なる創造の姿が見えてくるのではないか。この、読書の生体実験記録が本書である。
取り上げたのは、創造、文化の発生と伝承、パクリについて考えさせてくれる本ばかりである。
誤解しないでいただきたいのは、本書で取り上げた本の著者が何かをパクっているということでは断じてありません。著者の方々の名誉のため、これは明記しておきます。
みなさん、創造の世界への扉は三十六あります。どこからなりとお入りください。」
では、以下に、本書で取り上げた名著をご紹介しましょう。
<目次内容>
01 岡本太郎『沖縄文化論』
まず原型から疑え
02 植草甚一『ワンダー植草・甚一ランド』
食べる人
03 鶴見俊輔『限界芸術論』
芸術の土台を発見する
04 水上 勉『土を喰う日々』
四季をパクる食卓
05 三木成夫『内臓のはたらきと子どものこころ』
宇宙をパクる胃袋
06 柳澤桂子『「いのち」とはなにか』
すべては自己パクリから始まった
07 西岡常一、小川三夫、塩野米松『木のいのち木のこころ
〈天・地・人〉』 千年かけたパクリ?
08 池波正太郎『鬼平犯科帳』
パクリの品格
09 寺山修司『誰か故郷を想はざる』
ふるさとパクって
10 土方 巽『土方巽全集I』
形を食い破る生命
11 正高信男『子どもはことばをからだで覚える』
言葉をパクり言葉にパクられる
12 野口晴哉『整体入門』
野蛮人の体力をパクリかえす
13 三好春樹『元気がでる介護術』
下降線の中で輝く生を復権する
14 河野美香『男が知りたい女のからだ』
パクりたいパクれない
15 江國香織『きらきらひかる』
関係を食い破る純愛
16 片岡義男『ホームタウン東京』
時差をパクる
17 安井仲治『安井仲治写真集』
惜しみなく写真機は奪う
18 稲垣足穂『一千一秒物語』
言葉の隙間をパクる
19 草間彌生『無限の網』
世界に喰われるか喰うかの闘い
20 折口信夫『死者の書・身毒丸』
魂寄せアヴァンギャルド
21 森谷寛之、杉浦京子、入江 茂、山中康裕
『コラージュ療法入門』 人間はパクる葦である
22 茂木 健『バラッドの世界』
口承・パクリ・創造
23 塚原 史『ダダ・シュルレアリスムの時代』
意味を殺す
24 相倉久人『ロック時代 ゆれる標的』
音楽からパクられたもの
25 野村 誠、片岡祐介『即興演奏ってどうやるの』
音楽を奪いかえす
26 椹木野衣『シミュレーショニズム』
パクって倒す
27 大平貴之『プラネタリウムを作りました』
見えない星をパクる
28 木下清一郎『心の起源』
前提をパクる
29 天藤 真『大誘拐』
パクったつもりがパクられて
30 竹山 哲『現代日本文学「盗作疑惑」の研究』
いわゆるパクリについて
31 日名子暁『パクリの戦後史』
夢は荒れ野を
32 野田正彰『この社会の歪みについて』
奪われた生
33 浜なつ子『死んでもいい』
魅せられたる魂
34 福岡正信『[自然農法]わら一本の革命』
真にパクるとは何もしないこと
35 田川健三『キリスト教思想への招待』
宗教ー神=?
36 松井孝典『宇宙人としての生き方』
もう地球からはパクれない
『パクリ学入門』は、何かを表現しようとしている方、創造のトビラをこじあけようとしている方、本の読み方を知りたいと思っている方、すぐれた読書案内を探している方、本書をパクろうと思っている方・・・にとっては、大いに刺激になり、また、芸術や文化、創造力に関する興味深いヒントが詰まっています。一家に一冊、ぜひ常備していただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
(ガイア・オペレーションズ 編集担当/和田文夫)