なにをやっても、うまくいかない十九歳の希里絵。
転げ落ちるように人生の泥沼に沈んでいく。
彼女を待ち受ける過酷な宿命とは何か。
彼女に手をさしのべる奇妙な人たちの秘密とは何か。
若き女性の再生と誕生を描いたシリーズ第1作。
人類の未来を託された人々が今、動き出す。
著者: 和田文夫
初版: 2003年11月6日
体裁: B6判、256頁、ソフトカバー
定価: 本体1,200円+税
発行: ガイア・オペレーションズ
発売: 英治出版
★本文紹介(冒頭のエピローグより)★
ゆるやかな右カーブを抜けると、眼下に日本海が姿をあらわした。
V字谷の中ほどまで海がせりあがり、その底に町が広がっている。
定規で引いたような一直線の国道を滑るように下っていく。
さっきまで、狭くて曲がりくねった道を走ってきたのが嘘のようだ。
1200cc、並列四気筒のエンジンがうなり、からだを振るわす。
自分がオートバイに乗って故郷に向かっているなんて……。
ビデオの早戻しのように、2年の歳月を思い返す。
義父は元気にしているだろうか。
次郎は幸江と結婚したのだろうか。
小川さんは、佐知子と暮らしているのかな。
あらためて考えてみると、自分の人生とは思えない。
まるで他人の人生を空から眺めているようだ。
これは運命だったのだろうか。
ちがう。
人は、自分を何かにゆだねることなど絶対にできない。
人は、人を救ったり癒したりはできない。
自分で自分を変えていくしかないのだ。
私は、たくさんの人たちの力をもらって生まれ変わった。
世界はきっとやさしさに満ちあふれている。
ただ、それに気づいていないだけなのだ。
キリエ、あなたはよく生き抜いてきた。
これからも、自分をもっと汲み尽くしていくのよ。
それがほかの人たちに勇気と微笑みを伝播していく。
私は静かに微笑んだ。
未来はここにあり、過去もここにあり、今という瞬間を私はすべて引き受ける。
(c)Fumio Wada