
和田剛さんの写真展〈おれとキューバ〉を見に行く。
東京新宿・エプサイトを訪れたのは、10年ぶりくらいだろうか。
記憶をたどると、ビジュアル広告関係の業界誌の編集をしていたころ、
東松照明さんの取材を、たしか、エプサイトでしたはずだ。
おそろしく緊張していたことをいまでも思い出す。
それにしても、新宿は人が多い。
高層ビルが林立し、人混みに流される僕は、まるで「おのぼりさん」状態だ。

今回は、展示数が多く、たっぷりとキューバの空気を堪能できる。
とても自然な作品だ。
目線のある写真ですら、それを撮している写真家の存在が希薄なのである。
写真家の意図を意識することなく、キューバそのものに僕らの意識が入りこんでしまう。

作品は、額装ではなく、パネル貼りだった。
そのせいか、一枚一枚の写真が、屈託なく語りかけてくる。
マイクを通した杓子定規な公式答弁ではなく、
床屋のあるじと、きさくな会話を交わしているような雰囲気。
昭和30年代、僕らはこんなふうに暮らしていたのではないか、
と、ふと思った。
はたして、この今の日本に暮らす僕らは、豊かになったのだろうか。
とてもそうは思えない。
豊かと設定されたシステムに組み込まれているにすぎないのだ。
資本主義とか社会主義とかいうことではなく、
僕らは、自分の暮らしの主導権を、システムに委任してしまったのだ。
システムに文句はいうが、システムそのものから脱走することは考えない。

仕事のない日、和田剛さんはギャラリーにいる。
彼はたぶん、おれの作品、おれの表現を見てくれ、とは思っていない。
キューバって、なんか、いいよ。
おれたちが、すでに捨ててしまって、でも、捨てるべきじゃなかったかもしれない、
暮らしのリアリティが充満しているんだ、などということを、
ひっそりと伝えたいためにいるのだと思う。
展示は、来週23日まで。ぜひ、のぞいてみてください。
ギンザ・フラッグ・ギャラリーで展示オリジナルプリント販売しています。
ぜひ行ってみて下さい。