2023年12月05日

★ 官僚主義を打破する、注目の書 ★

自著でも、自社の本でもありませんが、1年以上にわたって編集協力してきた大著がついに完成したので紹介します。英治出版発行の新刊です。

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『ヒューマノクラシー/「人」が中心の組織をつくる』

ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ 著
東方雅美訳、嘉村賢州-序文、
英治出版、2023/12/6発売、定価2,750円(税込)


長年にわたって組織の根幹をなしていた官僚主義=ビューロクラシー。もはや、その役割を終えたはずなのに、まだまだ一部の組織に根深く残りつづけている。この本では、ピラミッド型の垂直制御をおこなう組織から、現場で汗水流して働いている従業員を中心とした「人水平(僕の造語だが、現場の人たちが、自分たちで考え、アイデアを出しあい、工夫して、日々のさまざまな業務をおこなうだけでなく、経営全体のことまで含めて、自分たちで運営するという意味)の組織」の先見性を力説している。

私は経営分野については門外漢だが、ゲラを読んでいて、のめりこんでしまった(笑)。というのも、実例でとりあげている欧米企業の「ミシュラン」や「サウスウェスト」や「ニューコア」の話が、まるでドキュメンタリー小説を読んでいるような筆致だったからだ。ふと、かつて大ヒットした企業小説の『ザ・ゴール』を思いうかべる。著者および翻訳者の手慣れた文章力が光る。

訳者がゲラを校閲している頃だろうか、テレビのワイドニュースでは、ビッグモーターやジャニーズ事務所の報道が過熱していた。最近では、大学のアメフト部の事件や自民党の「パーティ券裏金疑惑」などが取りざたされている。

なんだか、こうした問題の背後に、垂直に形成された権力構造が見え隠れする。透明性や説明責任という表現が飛び交うなかで、いまだに官僚主義が根強く生き延びていることを肌で感じる。というより、われわれ自身の心のなかに、あるいは自分が暮らす地域のなかに、さらには広い社会のなかに、無意識に、まだしっかりと官僚主義の性癖がこびりついているのではないか。

ともあれ、この『ヒューマノクラシー』の内容は、批判が主ではない。産業革命時に必要とされた官僚制のメリットやデメリットを検証するなど、官僚制の長い歴史を、端的に、冷静に分析しつつ、それ以外の大半を、官僚主義から脱却するための解説に充てている。

官僚主義から脱却するため、困難のなかで地道な取り組みをしている大小の企業や組織の事例を豊富に紹介。また、自分の日々の職場のなかで、どうしたら粘り強く、官僚主義を超えられるか、その方法を具体的に伝授。

つまり、読むと元気になる本だ。冬休みに一読をお勧めする、うってつけの一冊だと思う。
(2023年12月6日 和田文夫)
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2017年12月13日

雲を眺めに君津海岸 2017年12月12日

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東京湾をはさんで、君津から眺めた富士。
打ち返す波はやや強いが、風はなく、夕焼けが赤く燃える。
どこから見ても富士は富士で、たいした存在感だ。
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2017年06月25日

<折にふれて> 2017年6月25日(日)

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(写真をクリックすると拡大します/SIGMA DP2 Merrill)


梅雨の曇り空が広がる。廊下のガラス戸に、なめくじの子どもが張りついていた。が、よく見ると、隣の家の庭に鎮座している樫の木の花粉のようである。ようである、というのは、隣の家の大木が、何の木であるか、わからないからだ。野球選手やタレントの名前は何十人も知っているが、木の名前は、せいぜい、十数種類しか知らない。よくよく考えてみたら、昆虫の名前、草花の名前など、あまり知らない。そういうものを知らなくても暮らしていける暮らしのなかで生きてきたからだろうか。なんだか自分が、うすっぺらに見えてきた。
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2016年07月20日

『孤島の発見 パート2』へ再始動(その2)

●2016年7月7日(木)前浜〜東平安名崎

1951年からの気象観測の統計で、観測史上2番目に遅い発生だった台風1号・ニパルタック。進路予想では、台湾を直撃するコースをとっていた。友人からメールがきたが、メールの件名が「嵐を呼ぶ男」となっていたのには苦笑した。台風は恐ろしい。だが、これまで生死の境をさまようような経験をしていないせいか、僕にとって台風は、ある種、祝祭のような、地球にとってのハレの日のような姿に映る。雲を撮りたくて、まずは与那覇・前浜へ。圧巻の雲が湧いていた。

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(与那覇・前浜にて撮影:写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP0 Quattro)

これまで、宮古島でも、何度か台風に遭遇した。気圧のせいなのか、妙に、胸が騒ぐ。ついつい、東平安名崎へ引き寄せられてしまう。幸い、この日は、台風の影響はそれほどなかったが、灯台下のサンゴ礁には、東シナ海から、うねりが届いていた。が、さほど大きなうねりではない。宮古の人のなかには、この岬の突端から水平線を眺め、そのはるか彼方にニライカナイ(理想郷)を思い浮かべたそうだが、僕にとっては、この岬こそが、ニライカナイのように見える。いずれにせよ、エメラルドグリーンだけではない宮古島の魅力、地球の荒々しい呼吸のような力が満ちている。

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(東平安名崎にて撮影:写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP0 Quattro)

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2016年04月25日

編集日記 2016年4月23日(土)

●仲程長治 写真展 / 琉球グラデーション

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京橋で、仲程長治さんの写真展が開かれていたので、写真家の和田剛さんと見にゆく。
http://islandgallery.jp/12729
沖縄本島から、宮古や石垣など、さまざまな場所で撮影された自然の風景の数々。
美しく、端正に額装されていて、ビルの地下にある空間が、沖縄の空気に染まった
ような錯覚を覚えた。

仲程さんと知り合ったのは、英治出版の

 「ホテル日航アリビラのスタッフがおすすめする
  沖縄・読谷の笑顔に出会う旅」

という本の編集協力を依頼されたとき、現地の撮影・編集スタッフとして、
「モモト」さんに協力をお願いしたときに、初めてお会いした。
気さくで、自由闊達で、ほのぼのとしていて、沖縄の空や海のような方である。

会期は5月1日(日)まで。ぜひ、沖縄の風景を堪能しにいってください。




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2015年08月23日

編集日記 2015年8月22日(土)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

残暑の厳しい土曜の午後おそく、友人Jと田浦散策へ。北口(港側)を出ると、閑散としている。戦前から残っている倉庫群は、だいぶ建て替えられてしまった。かつての国電田浦駅から港へ通じる、引き込み線の線路は、かろうじてまだ一部が残っている。土曜のせいか、閑散としているが、よくよく考えてみると、平日でも閑散としている。

北口の階段と隣接するように建っている酒処「夜城」は、たしか一昨年に閉店してしまったが、おばさんが、玄関前で掃き掃除をしていた。一度だけ飲みに行ったことがあるが、店の一角は防空壕とつながっていて、そこにトイレがある。本当の昭和の趣があり、自分の子ども時代にタイムスリップしてしまった。

10歳のとき、風呂は木製で、窯に新聞紙をねじって置き、その上に薪をならべ、さらにその上に石炭を乗せて、火をつけたものだ。冷蔵庫も木製で、夏の朝、氷り売りが来ると、一貫目、とか二貫目の氷を買い、上部の氷り室に入れると、下の室が冷える、といった構造だった。

それから、たかが半世紀ほどでアップル社からiWatchなるものが発売されるなど、つまり、当時の僕からみれば、なにもかもがSFの世界のようになるなど想像できただろうか。でも、こうした未来の科学技術は、いま僕らを、どれほど豊かに、幸福に、安らかにしてくれているのか、僕にはよくわからない。

かつての軍港、田浦の閑散とした町を歩きながら、そんなことをふと思った。
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2015年04月04日

編集日記 2014年4月4日(土)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

明け方、仕事を切りあげる。
急に、ネギトロ巻きを食べたくなり、コンビニへ。
ネギトロ巻きを買うが、その中落ちの桃色が妙にけばけばしい。
家に戻る途中、ネギトロと同じ色の桃色の花、
シャリと同じ桜の白い花を見て心が浮き立ち、
家に戻るとカメラと三脚をたずさえ、ふたたび桜へ。
満開の白い花弁と、乳白色の朝の空に心が浮き立つ。

家に戻ると、庭のボケが春の雨をうけて、みずみずしい。
ぼんやりとした曇り空を人が好まないのは、なぜなのだろう。
太古に、いやな記憶があり、DNAに刻印されているからなのか。
白い空は、美しい。なぜか、最近それを強く感じる。

きょうで春分も終わり。
明日から清明だ。
早くも晩春の声を聴く。

仲春/春分/末候(12候:3月31〜4月4日)
涼風、至る
日の出  5:24(前日  5:26)
日の入 18:05(前日 18:04)
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2014年04月29日

沖縄本島・読谷村出張記(その12)2014年4月23日

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)


太いガジュマルの木に惹かれるのは、なぜだろう。
遺伝子のなかに刻印された遠い記憶が、よみがえるからか。
よく見ると、ブナの木に似ていなくもない。
木の起源。時間を遡れば、その大本がみえてくるかもしれない。
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2014年04月27日

沖縄本島・読谷村出張記(その11)2014年4月26日

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

読谷村、アリビラにて

火曜日に沖縄に出張して、連日の雨。
梅雨入りかと言う人もいたが、最終日は、晴れ間がのぞき、完全に夏。

打ち合わせをおえてから、芝生で独り、のんびりと海を眺める。
ドーベルマンだろうか。飼い主の女性がテニスボールを投げると、
目の覚めるような疾走でボールをひろい、女性のもとに戻ってくる。
トンボがたくさん、ダンスするように舞っている。

やや強い海風が、吹き抜けてゆく。
そんな、ありふれた風景のなかにいるだけなのに、
あまりの幸福感に、めまいがしてくる。

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2014年03月14日

沖縄本島・読谷村出張記(その10)2014年3月5日(水)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

3月5日、読谷。
強い海風が吹くなか、海側からホテルアリビラを眺める。
2月の沖縄は曇天の日が多い。
光まばゆい沖縄もいいが、僕はこの曇天もけっこう気に入っている。
南の思想というか、雲が熟考しているような風情がある。
浜辺を散策する人たちにも、どことなく、沈思黙考しているように見える。
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2014年03月12日

沖縄本島・読谷村出張記(その9)2014年3月5日(水)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

電照菊の撮影は、強風で難儀した。
重く垂れ込めた雲を見上げていたら、荒れた海を見たくなった。
アリビラのプライベートビーチの南端を回ったところにある小さな砂浜へと向かう。
渚へでると、宮古島・来間島にいたのとそっくりな岩と出会った。
じっと見つめていると、岩から、ささやくような声が聞こえてくる。
いつもそんなふうに感じてしまう。
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2014年03月10日

沖縄本島・読谷村出張記(その8)2014年3月5日(水)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

3月5日。昼顔が生い茂るフェンスから道を挟んで、
電照菊(でんしょうぎく)の畑が広がる。
最初、ホテルアリビラの最上階のバルコニーから見たとき、
漆黒の畑のなかで光る無数の光の得体が知れず、
大いに気になったものだ。

読谷村は菊の産地で、電照菊による抑制栽培が盛んだ。
菊は、日照時間が短くなると花芽を形成し、やがて開花する性質があるという。
その性質を逆手にとり、花芽が形成される前に人工的に光をあてることで、
開花時期を遅らせる方法が電照菊ということだ。

新宿歌舞伎町とおなじく、昼日中の光景は、夜にくらべて拍子抜けしてしまうが
整然と植えられた菊の畑は、圧巻だ。
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2014年03月09日

沖縄本島・読谷村出張記(その7)2014年3月5日(水)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

3月5日。読谷村のホテルアリビラで打ち合わせを終え、
駐車場へ向かうとちゅう、少し歩こうと思った。
その土地に親しむためには、歩くのがいちばんだ。
アリビラから南へ足をむけると、
逗子の自宅の近所でよく咲いている朝顔が咲いていた。
いや、昼顔か。
いずれにせよ、ガジュマルとちがって、親近感がわいてくる。
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沖縄本島・読谷村出張記(その6)2014年3月5日(水)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)



沖縄・読谷村に出張。
ゲストハウス〈琉球庵〉の青年オーナーから
「近くに巨木がありますよ」と聞き、さっそく調査へ。

宿からほど近い波平地区にある憩いの広場、
波平東門(はんじゃあがりじょう)に、巨木が立っていた。
「おきなわの名木」の1本に数えられるそのガジュマルの木は、
じつに怪しく、パワフルで、ゆったりとした気持ちにさせてくれる。
写真は、3月5日に撮影したもの。
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2014年01月03日

2014年1月3日★本が出ます。

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   2007年に宮古島の写真集『孤島の発見』を出版して以来
   7年ぶりに本を書いた。
   と言いつつ、いったい7年のあいだ何をやっていたのか、
   と憮然としたこともたしかだ。

   本のタイトルは、『たのしい編集』。
   編集、DTP(組版)、校正、装幀など「本づくり」の工程について、
   僕の、つたない経験をまとめたものである。

   また、本の仕事に携わるプロフェッショナルの方々に
   インタビューした記事も収録している。

   『ダヴィンチ・コード』を訳された翻訳家の越前敏弥さん、
   長年、装幀デザインを手がけてきた、デザイナーの大森裕二さん、
   大手印刷会社で出版印刷を担当してきた尼ヶ崎和彦さん、
   彼らのプロフェッショナルとしての経験と技術には
   ただただ教えられるばかりで、自分の無知を思い知らされた。

   今年、僕は年男で、還暦を迎える。
   昭和30年代のころ、小学生だった僕には、
   60歳の人は、おじいさん、おばあさんに見えた。
   自分が、おじいさんになるとは、夢にも思っていなかった。

   とはいえ、60歳の自分の頭のなかは、まだ高校生みたいで、
   幼稚このうえないように見える。
   どうしたものか。

   それはともかく、還暦の年に、これまで携わってきた本の仕事について、
   まとめることができたのは、ありがたいことだな、と思う。
   何かをまとめるのは、次の場所へ向かうための準備だ、といえなくもない。

   本をつくっていていつも思うのは、人間というのは、
   生きるだけでは満足できない動物なんだなと。
   生きることの「意味」をつねに問うてしまうのが人間の哀しさであり、
   喜びであり、性(さが)であり業なのかな、と思ったりもする。

   本の好きな人には、ぜひ読んでほしいと願っている。
(和田文夫)
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2013年08月11日

沖縄本島・読谷村出張記(その5-2/最終回)2013年6月18日(火)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)


琉球庵へもどり、荷造りをして、宿をあとにする。リョウタさん
のお母様が玄関で見送ってくれる。ゲストハウスというよりホー
ムステイをしたような気分で、たった2泊の滞在だったが、濃い
時間を過ごせたような気がする。

座喜味城跡へ。一昨日、英ちゃんと訪れたが、写真を撮っていな
かったので、再度、訪れる。平日のせいか、人の姿はほとんどな
く、ゆっくりと撮影できた。ただし、大粒の雨が、ときおり落ち
てくる。この雨粒がレンズについていたようで、あとで現像した
とき、写真にぼんやりベールがかかったようになっていた。とう
ていプロの写真家にはなれそうもない。

座喜味城は、首里王国のグスク関連遺産群として、世界遺産にも
登録されている。最近、富士山が世界遺産になり、マスコミがあ
おり立てるせいか、登山者が急増しているようだ。おなじ世界遺
産でも、座喜味城はひとけもなく閑散としていたが、妙に心をし
んとさせる何かが漂っている。

あとで聞いた話では、座喜味城の城壁にぶつかった気が落ちる場
所、すなわち、風水でいう「穴」が近くにあるそうだ。沖縄戦の
ときには砲台としても使われていた座喜味城だが、この閑散とし
た静けさのなかにも、歴史のさまざまな気が、記憶が、悲喜など
が、眠っているように思えてならない。

城をあとにしてから、近くにある長浜ダムへ。時間があまりな
く、そそくさとダムをあとにしたが、農道を走っていて、つい車
を停めてしまう。いつもの悪いクセで、何の変哲もない一本道を
見ると、写真を撮りたくなってしまうのだ。

おまけに、その道の上には、せりあがるような巨大な雲が伸びて
いる。坂の上の雲か・・・。車を出て、農道に三脚を立てている
と、心地よい浜風が吹きぬけてゆく。いいなあ。

畑と道と雲と海。取り立てて特筆すべきものは何もない。そんな
風景になぜ自分は過剰に反応してしまうのか。これは、長年の研
究課題でもある。じっくり考えてみたいところだが、飛行機は
待ってはくれない

今回の出張の最後の締めとして、またぞろ番所亭へ寄り、遅い昼
食をとる。またしても、紅ざるの大盛りとジューシーを注文す
る。保守的このうえない。

食事を終え、58号線を那覇へ向かって走りはじめるが、途中か
ら雨脚が強くなり、宜野湾あたりから猛烈なスコールとなる。数
メートル先がかすむほどの土砂降りで、飛行機が飛ぶかどうか、
心配になる。が、これくらいの雨では、まったく問題ないように
飛行機は雨の空港を飛び立った。

しばらくすると、眼下に奄美大島が見えてきた。奄美をすぎると、
奄美と喜界島が夕陽を照りかえす海に浮かびあがる。小さな島に
惹かれるのは、なぜだろう。本州も島にはちがいないから、いつ
も不思議な気がする。

小さい、というところがミソかもしれない。ほんらい小さな僕ら
は、大きくなりすぎてしまったのではないだろうか。大きく、広
く、たくさん、という欲望を満足させようと、人々は、つねに過
剰を求めつづけている。

小さな島は小さく暮らすしかない。そこになにか、暮らしを楽し
む知恵があるのかもしれない。1万メートルの上空でそんなこと
を妄想しながら、僕は機内で買った小さな缶ビールを飲んだ。
                        (おわり)
posted by サンシロウ at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ★編集日記

沖縄本島・読谷村出張記(その5-1)2013年6月18日(火)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)


今日は、8月10日の土曜日。列島は猛暑がつづく。
すでに立秋の声を聞いたが、涼風はまだ吹かない。
仕事場にはエアコンがないので、大げさではなく、サウナにいる
ような案配だ。ただ座っているだけで汗が噴き出してくる。

ふと、読谷出張記がまだ残っていたことを思いだす。
もう2か月近い過去になってしまったが、きのうのことのように
感じる。たしかに、6月中旬の読谷村の暑さは、8月の今と似た
ようなものだったなと気づく。夏が2か月もつづいているわけだ。

さて、過去へ戻ろう。
6月18日。琉球庵。汗まみれで、目覚める。窓の外は快晴。
カメラをもって、琉球庵のベランダへ出る。起き抜けに写真を撮
ることもないだろうにと思いつつ、夏雲の圧倒的な姿に見とれる。

時は止まり、ただ光だけが降りそそぐ。このベランダで、日がな
一日、空を眺めて過ごしたらどんなにいいか、思案する。ベラン
ダの隅に、小さなシーサーが座っている。かわいいが、威風堂々
としている。暑いのに大変だ。この家を守っているのだろう。

シャワーを浴びて居間へ降りてゆくと、リョウタさんが、近所を
案内してくれるという。琉球庵の裏手には、小さな川が流れてい
た。暑さで溶けそうな県道から川へ降りてゆくと、草が生い茂っ
ていて、ひんやりしている。鉄の棒でやぶを突きながら進む。ハ
ブに出会わないようにするためだ。

案内してくれたのは、川のそばにある、御嶽だ。小さな御嶽で、
祠の手前に、インパチェンス(別名アフリカホウセンカ)が花を
つけ、シダも生えていた。まるで供花のように見える。御嶽のま
えにいると、しずやかな心持ちになる。

宿にもどり、車でリョウタさんお気に入りのビーチに連れて行っ
てもらう。6号線を残波入口から真栄田岬のほうへ向かい、恩納
村へ入ってしばらく走った空き地に車を停めた。すぐ近くに、巨
大な墓があり、目を見張る。

ビーチに出る。北東に真栄田岬が見える。それにしても、この雲
はどうだ。力にあふれていて、それでいて、軽やか。雲好きには
たまらない光景だ。

ビーチの西側には、大きな岩に挟まれた小さな渚が、なんともい
えない魅力をたたえている。時間があれば、その日陰の渚で、日
がな一日・・・馬鹿の一つ覚えだ。

水も澄んでいて、宮古島の池間ビーチをふと思いだす。沖合の右
手に、伊江島がぼんやりと見える。それにしても、地元の人に教
えてもらわなければ、こんな場所にはまず来られないな、と思っ
た。                      (つづく)
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2013年08月10日

編集日記 2013年8月10日(土)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)

猛烈な暑さがつづく。
ほとんど外出せず、エアコンの利いた居間と、
エアコンのない仕事場を行ったり来たり。

でも、暑い夏は好きなほうだ。
暑いときは、仕事もほどほどに、
庭とか蚊取り線香などを眺めている。

蚊取り線香の匂いというのは、なぜか郷愁をさそう。
子どものときを思い出すからだろう。

子どもの頃、夏は暑く、冬は雪が多く、寒かった・・・。
という記憶は、たぶん、自分でこしらえた記憶なのだろう。
年間データを見れば、たぶん、そういうイメージのほとんどが
根拠を失うかもしれない。

だが、と思う。
記憶のなかにしまった世界は、じっさい、そういうものだったのだろう。
ぼくらはデータで生きているのではなく、感覚で生きているからだ。
蚊取り線香を見ていたら、そんな他愛ないことを考えてしまった。

それにしても、蚊取り線香の燃えかすは、ずっとつながっているのではなく、
ある長さで、切れ切れになる、ということに気づいた。

立秋/初候(37候:8月7〜11日)
涼風、至る
日の出  4:56(前日  4:56)
日の入 18:37(前日 18:38)
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2013年07月05日

沖縄本島・読谷村出張記(その4-4)2013年6月17日(月)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)


まだ読谷にいる・・・このブログのなかでは。
昼寝の誘惑をたたみこみ、車へもどる。渡具知ビーチをでて、農
道へ折れる。どうでもいいような脇道にまぎれこむ性癖が、僕に
はある。農道の直角の曲がり角に、アメリカ人の中年の女性がい
た。大きなセントバーナードを二匹、連れている。散歩だだろ
う。僕の車が近づいたので、犬を呼び寄せている。僕は社内で頭
を下げ、徐行しながら先へ進む。

鳥居通信施設にぶつかって左へ折れると、木綿原遺跡があり、す
ぐビーチへ出られる。車を路肩に停め、ゆっくりビーチへ歩いて
ゆく。陽射しがまぶしく、相変わらずうなじが焼けるようだ。時
計を見ると、午後6時。まるで、正午のような空だ。

ビーチへでる藪の切れ目に大きな木がぽつんと立っている。モク
マオウだろうか。呻吟しながら体をひねっているような形に見と
れる。海風のせいで、そんな姿になってしまったのか。ビーチは
白い砂浜がつづき、ひとけもなく、ひっそりとしている。

鳥居通信基地の前にある浜のほうへ歩いてゆく。アダンやソテツ
が伸び伸びと育っている。かりゆしウェアを着て、ビニール袋を
もち、サンゴか貝殻を拾っている男性の二人組。タンクトップに
短パンの若いアメリカ人カップルが、これまた下を向いて、とき
どきしゃがんで何かを手でつまんでいる。浅瀬には、パドルサー
ファーが一艘、何をするでもなく、海の上に立ちつくしている。

波打ちぎわには、アーサーがびっしりと打ち上げられていて、ビ
ーチの中ほどまで打ち上げられたアーサーは、サンゴと同じくら
い真っ白に脱色されていた。その上をあるくと、スポンジの上に
いるみたいだ。

何枚か写真をとって、58号線に戻る。鳥居ステーションを左に
見ながら、基地をぐるりと回って、楚辺の浄化センターへ行く。
門扉は閉まっていて、駐車禁止となっていたが、車を停める。す
ぐ隣が公園になっていて、きれいに整備されている。ホースが無
造作に投げ出してある。水をまいたのだろう。地元の中学生と小
学生の4人のグループが、地べたに座って、なにやらゆんたくし
ている。僕をみて、にやにやしている。

「ユーバンタって、どこ?」とたずねると、
「そこ」と言って、笑いながら背後を指さした。小さな浜で、ひ
とり、泳いでいる人がいた。公園の南側には、アーサーがびっし
りとついた岩場が広がっている。不思議な光景だ。かなたに、北
谷の街並みがみえる。

写真を数枚撮り、少年たちに「ありがとう」と言うと、「さよう
なら」と元気な声が返ってくる。帰路につく。歳のちがう近所の
こどもたちが、西日の射す浜辺にたむろしておしゃべりしている
姿に懐かしさがこみあげてきた。昔、子どもたちは、あんなふう
に遊んでいたなあ。

58号線に戻るとき、そういえば、さっき、サンエーがあった
な、と思いだし、夜の食事を仕入れようと、58号をすこし戻
る。宮古島でもよくサンエーに買い出しにゆくが、宿の人から、
「サンエー派」ですね、と言われた。僕は、そうです。と答え
てから、サンエーのポイントカードを見せるのが、ゆいいつの
自慢だ。どうやら、サンエー派、カネヒデ派、マックスバリュ
ー派などの派閥があるらしい。

サンエーで、セイイカとカツオとまぐろの刺身盛り合わせやサラ
ダやジューシーおにぎりやビールなどを買って駐車場へ戻ると、
空が燃えていた。ああ、日没までビーチにいるべきだったと後悔
したが、まだ間に合うかもしれないと、都屋漁港のほうへ降りて
行く。漁港の端にある堤防の隣にある小さな浜へ降りて三脚を立
てる。かろうじて、数枚、撮ることができた。

それにしても、おれは一体何をやっているんだ、という疑念が頭
をもたげてくる。取材してるのか、遊んでいるのか、漂流してい
るのか・・・よくわからない。

思えば、いつもそんな旅の仕方をしてきた。宮古島の写真集をつ
くったときも、同じだ。その土地の文化も歴史も、見ないように
する。いま、そこに暮らす人たちの姿を、少し離れて見る。孤島
に漂着した遭難者のように、ただ、自然だけを眺める。

十代のころから、そんな旅ばかりしてきたことを思い出す。人の
旅の仕方というのは、人の数だけあるかもしれないが、その人の
旅の仕方というのは、おいそれと変わるものではないんだな、と
思う。

だから、なんなんだ、と言われても困るが、旅というのが、つね
に、たった一人の自分ととことん向き合うことなのだと、久しぶ
りに思いだしたのである。帰るところがあるから、旅は楽しいん
だと高見順は言ったが、この寂しさに面とむかえるから旅は楽し
いんだな、と琉球庵へ向かって車を走らせながら考えた。
                        (つづく)
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2013年07月04日

沖縄本島・読谷村出張記(その4-3)2013年6月17日(月)

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(写真をクリックすると拡大します/シグマ、DP2 Merrill)


喜名の番所から58号線を南下して、嘉手納町と読谷村の境を流
れる比謝川まで戻る。読谷村の南の入り口、比謝川大橋から読谷
村に入ってみたかったからだ。

真っ赤に塗られた比謝川大橋から川べりに目をやると、人が立っ
ている。釣り人だろうか。川は流れがなく、緑の池のように見え
た。気持ちよさそうな木陰のある遊歩道を歩きたかったが、あき
らめて、渡具知ビーチへ向かう。

猛烈な暑さのなか、ゆっくりと浜を歩いた。月曜日のせいか、人
の姿はほとんどない。頑丈なコンクリートでつくられた東屋の日
陰で、地元のオジイが昼寝をしている。射るような夏の光が、時
の流れを押しとどめているかのようだ。ときおり、その光を切り
裂くように、戦闘機が爆音をしたがえて嘉手納のほうへ消えてゆ
く。

白い道を歩いてゆくと、立派なアダンの木が立っている。ずっと
見ていると、まるで人のように思えてくる。浜の右手にある岩場
までいくと、若い男が、岩の上にすわって、海を見ている。暑く
ないのだろうか。さらに歩いてゆくと、三十半ばくらいの、アメ
リカ人の夫婦とすれちがった。

散策をきりあげて戻る途中、涼しげな木陰が目に入った。近づく
と、どうやら御嶽のようだ。岩の斜面に、鳥がじっと立ってい
る。東屋が、手入れのゆきとどいた芝生に黒い影を落としてい
る。そこに腰をおろして、しばらく、ぼんやりと、水平線をなが
める。少し眠くなってきた。このまま日が暮れるまで、昼寝をし
たらどうかという誘惑に駆られる。        (つづく)
posted by サンシロウ at 03:36| Comment(0) | TrackBack(0) | ★編集日記